SMB DX Discussion Vol.7

 

「中小企業におけるDX推進人材の獲得(前編)」

 総務省が2021年7月30日に公表した「令和3年版情報通信白書」によれば、日本のDX推進における人材不足の課題は、米国・ドイツと比較して突出している

 中小企業の場合、人材不足どころか、DX推進の為だけに人を雇う余力も無ければ、人材調達のコストをかける余裕すら無いという企業も多いはずだ。しかしながら、現実的には経営者自らのスタンスだけで無く、現場レベルで手を動かしながら推進できるような人材の存在が、DX実現可能性とスピードの両面で重要となってくる。中小企業といえども、なんとかこのような人材を確保することができないものだろうか。

 

 人材確保の方法について考える前に、DX推進に必要な人材のスキルについてかんがえてみたいと思う。必要なスキルが明確になれば、その獲得方法も見えてくるはずだ。

情報処理推進機構(IPA) 「デジタル・トランスフォーメーション推進人材の機能と役割のあり方に関する調査」 (https://www.ipa.go.jp/ikc/reports/20190412.html

 

2019年にIPAが発表した資料では例として、DXに必要な人材を、プロデューサー、ビジネスデザイナー、アーキテクト、データサイエンティスト/AIエンジニア、UXデザイナー、エンジニア/プログラマ、という6つに分けてアンケートを採っている

 

また、ガートナージャパンでは2021年に「デジタル・トランスフォーメーションの推進に必要な5つの役割」として(参考:https://www.gartner.co.jp/ja/newsroom/press-releases/pr-20210818 )として、ビジネス系プロデューサー (ビジネス・アーキテクト)、テクノロジ系プロデューサー (テクノロジ・アーキテクト)、テクノロジスト (エンジニア)、デザイナー、チェンジ・リーダーという5つの役割を提唱している。

 

両者の内容と中小企業の現実的な可能性を考慮すると、大きく下記3つの区分に分けて、人材獲得を目指すことが望ましいのではないかと考えている。

 

ポジション 役割 IT知識レベル
プロデューサー(経営層) ・ビジネスモデルの企画、設計

・変革の主導

低~中
アーキテクト(マネジメント層) ・実施計画の策定

・システム導入の主導

・業務プロセスの設計

・システム導入効果の検証

中~高
チェンジ・リーダー(マネジメント層) ・部門内で率先して変革を行う

・社内コミュニケーションの向上

低~中
エンジニア ・ユーザー向けデザイン

・データ分析

・プログラミング

・インフラ整備、システム保守

 

この中でもとくに獲得が難しいのがアーキテクトではないだろうか。経営層に関してはIT知識レベルが低くても、デジタルや変革に対する意識次第で、既存のリソースで十分対応出来るはずだ。エンジニアはデザインやデータ分析といったDX特有の人材に関しては獲得は難しいものの、DXの開始段階(デジタイゼーションやデジタライゼーション)といったレベルでは、さほど必要性がない事が多いだろう。必要になったとしても、スポットであれば外部リソースによってまかなえる可能性が高い。インフラ整備・システム保守なども、ある程度規模感のある中小企業であれば、現時点で人材獲得できている事が多いだろうし、この分野の人材であれば、枯渇しているという程、人材が不足しているわけでもないだろう。

 

しかしながら、アーキテクトに関しては、IT知識レベルも一定以上必要な上、業務面にも精通していて、新しい業務プロセスなどを設計してそれを社内に浸透させるためのマネジメント能力なども問われてくる。このような2重・3重の能力を発揮できる人材は極めて少ない。

 

つづく

 

【執筆者】
中小企業DX推進研究会
副会長 笹原佳嗣