SMB DX Discussion Vol.8

 

「中小企業におけるDX推進人材の獲得(後編)」


中小企業におけるDX人材

ポジション 役割 IT知識レベル
プロデューサー(経営層) ・ビジネスモデルの企画、設計

・変革の主導

低~中
アーキテクト(マネジメント層) ・実施計画の策定

・システム導入の主導

・業務プロセスの設計

・システム導入効果の検証

中~高
チェンジ・リーダー(マネジメント層) ・部門内で率先して変革を行う

・社内コミュニケーションの向上

低~中
エンジニア ・ユーザー向けデザイン

・データ分析

・プログラミング

・インフラ整備、システム保守

 


前回のコラムでは、DX人材の中でも業務とITを一定レベルで理解するアーキテクト人材獲得の難しさについて検討した。

今回は、このアーキテクト人材の獲得方法を考えてみたい。まずはじめに思いつくのが、在籍している業務部門のマネジメント層の教育だ。多くの場合、既存業務における業務スキルとマネジメントについてはなんの問題もないものと思われるが、IT・デジタルに関する知識などは新たに獲得しなければならないことが多いだろう。しかしながら、プログラミングやUXなど、エンジニアと同レベルの知識を一から学んでいくというのは非効率だし、必要性も少ない。そこで、マネジメント層にはDXの成功事例などから深掘りしていくような形で知識を深めてもらうような学習が効果的だと考える。同業他社だけでなく、他業種においての成功事例なども数多く知り、そこから技術面の知識を深めていくような学び方が現実的ではないだろうか。ただこのような方法は、デジタイゼーションのような小規模な改善レベルであればさほど問題にはならないのだが、業務改革などの多人数、複数部署をまたぐような変革に対するマネジメントが必要な場合は、プロジェクトマネジメントなどに対してもある程度の知識と理解が無いと難しい。このようなスキルは通常業務では獲得できないので、この部分だけはスポットでも外部リソースで補う必要はあるだろう。


つぎに、業務部門の若手社員の教育について考えてみたい。マネジメント層のように現状の業務に対する知識や経験は少ないが、その分、推進力と固定観念に捕らわれない自由な発想ができることが最大のメリットになるだろう。実際にこのような人材を変革の中心において、成功した事例は少なくない。実践レベルになるにはマネジメント層に比べて時間がかかることにはなるだろうが、その分より適したスキルを獲得できる可能性がある。学習の方法はマネジメント層と同様に成功事例等をベースとして、周辺知識を獲得していく形が効率が良いが、できることなら、エンジニア的な業務も経験してもらうと良いだろう。既存の業務範囲に捕らわれず、より多くのことを経験できるような配慮が必要だ。改革プロジェクトの中心とする場合、業務部門のマネージャー等に潰されないよう、権限の付与と経営層のサポートも必須となる。


上記したいずれの場合においても、エンジニアレベルのITスキルや、コンサルタントのようなプロジェクトマネジメントのスキルを獲得することは難しいので、難易度の高いプロジェクトを推進する場合は、外部リソースを活用することが前提となる。また、既存業務との兼ね合いも考慮しなければならない。既存業務をまわすだけで、DXの為の学習時間を捻出できないというのであれば、まずは業務の効率化等で余剰人員を作り出したり、短期であれば(戦略的に導入するなら長期でも良いが)業務アウトソーシング(BPO)等を活用するという方法も有るだろう。

最後にエンジニアからのコンバートについても検討をしたい。エンジニアといっても、中小企業の場合、情報システム部門として既存システムの保守的な業務が主な仕事になりがちだ。業務部門からのオーダーに対して受動的に動くことが多いのだが、情報システム部門が強い会社は業務改革などが成功しやすい傾向があるように思う。エンジニアが変革の推進を担う場合、どうしても業務知識が不足してしまうが、この部分を補完できるような業務部門と積極的なコミュニケーションがとれるような仕組み作りが必要ではないだろうか。これに関しては人材そのものよりも社内体制作りの方が重要になると思われる。変革の中心となるメンバーに権限を与え、経営層が積極的にサポートすることも重要だ。

 

エンジニアに関しては現時点でそのような人材が在籍していない中小企業も多い。しかしながら、将来的なDXの実現を目指すのであれば、このような人材の獲得は検討すべきだろう。マネジメントは他のメンバーが行ったとしても、最終的にデジタルケイパビリティを獲得する上では必須となる人材であることは間違いないはずだ。

 

つづく

 

【執筆者】
中小企業DX推進研究会
副会長 笹原佳嗣