SMB DX Discussion Vol.6

 

「顧客は何を求めているか」

 

 2020年はコロナウィルス蔓延により、多くの事業者が影響を受けた。私の小学3年の息子は英会話教室に通っているが、この教室もしばらく休校となり、その後Zoomを使用したオンライン授業を開始した。この間、私は「オンラインで英会話授業が成り立つのであれば、海外のネイティブ講師と直接会話できる教室の方が良いのではないか?」と考え、息子に受講させることにした。結果から言うと、利用したサービスの満足度は非常に高く、質の高いネイティブとの1on1レッスンをとても低い料金で利用できた。ちなみに、息子が通っていた英会話教室は、現在はまた通学方式に戻ってしまっている。

 このエピソードのなかで私が伝えたかったことは、「顧客は何を望んでいるか?」という事だ。英会話教室の利用者(この場合は私の息子ではあるが、その保護者も顧客となるだろう)は、本当に通学形式でのレッスンを望んでいるのだろうか?通学をさせるには遠距離であれば、保護者の送迎も必要になるし、集合型での教育ではどうしても子供一人一人が英語を話す機会も少なくなってしまうだろう。もちろん直接対話できることや生徒間でのコミュニケーションでなければ身につかないこともあるだろうが、それを差し引いてもオンラインの方が価値があると感じた。

 このように、自分たちのビジネスにおいて「顧客に提供できている価値」と「顧客が望んでいる事」がアンマッチの状態になってしまっていては簡単に新規参入のライバルに顧客を奪われることになってしまう。経済産業省のDXレポート2においても、ビジネス環境の変化に対応するために、それに影響を与える顧客や社会のニーズを仮説から検証するよう求めている。その為に顧客との接点をデジタルで数値化し、顧客の課題を発見・解決するためのシステム(SoE:System of Engagement)が広がりを見せていることも紹介されている。

 このような顧客エンゲージメントの分野が最も研究されているのが、ECやWebサービスの分野ではないだろうか。オンラインでの顧客データは、その行動・購買履歴がすべてログとなって記録される上、デジタルマーケティングもそこに絡めやすい。Webサイト、検索エンジン、SNS、メールなど、顧客にリーチする段階からエンゲージメント獲得の為にあらゆる施策を打つことができる。中小企業においても今後オンラインでのビジネスはさらに活発になるはずだし、このような概念を学ばなければサイバースペースでシェアを伸ばすことは難しいだろう。

 さて、オンラインでのシェア獲得を議論する前に、既存のビジネスにおいて中小企業が真っ先にできることはなんだろうか。まず最初に取りかからなければならないのは顧客データの整備だろう。中小企業では自社の顧客情報をExcelで管理しているケースは珍しくないが、往々にしてこのデータは一元管理されておらず、営業部門、経理・総務部門、製造・サービス部門がそれぞれの顧客情報を持っているということは多い。このような状態では、データから顧客のニーズを見つけるということは難しい。まずは、全社で散らばっている顧客情報を一箇所でまとめて管理できるよう整備を進めるべきだ。

 私が以前に見たオフィス機器販売会社は営業部門と保守部門がそれぞれに顧客リストを保有し、管理していた。営業担当者は自分のエリアの保守担当者に、「近々機械が壊れそうなお客さんはいないかな?営業かけたいから。」というように、個別に顧客の情報を聞いてまわっていた。また、保守担当者は、営業マンが持っていない顧客社内の情報を多く知っている事がある。修理などのタイミングで顧客のキーマンとコミュニケーションをとることが多いからだ。もし、このような情報を一元管理していれば、営業マンは保守担当者の「記憶」に頼らなくても、修理履歴の多い顧客を抽出して効率の良い提案をおこなう事ができただろうし、商材に対して確度が高い顧客に優先してアプローチするといった施策も、データを活用して立てられたことだろう。ニーズの分析など行わなくても、顧客データが統合されていれば、十分なメリットを感じることができるはずだ。

 そこから、一歩進んでやっとニーズの分析というところにたどり着く。しかし、既存のデータを整備しただけでは見えてくることにも限界があるだろう。顧客課題の発見につながるようなデータを意識的に取得するような取り組みを行うことが必要なはずだ。顧客のパーソナルデータや事業環境に関するデータなど、これまでには収集していなかったようなデータを収集することで、顧客課題を発見することができるようになる。コンビニのPOSデータの事例(顧客の年齢、性別、天気などのデータを販売データと共に取得する)は有名で、一見すると直接関係がないようなデータがニーズの発見につながる可能性もある。顧客ニーズを把握するためには、顧客の意思決定に関与する可能性のあるデータを意識的に収集し、分析をおこなう事が必要になる。

 そのようなデータを集めるためには、そもそも自分たちが顧客に対して「どのような価値を提供すべきか?」「顧客は自社のサービスに価値を感じているのか?」ということを突き詰めて考えることが重要だ。このような観点がなければ、一体何をデータとして取得すべきかということが分からなくなってしまう。「自社の売上」と「顧客が求めるもの」の関連性を明かにするものが「データ」であることを理解し、価値あるデータの取得を検討しなければならない。

 

つづく

 

【執筆者】
中小企業DX推進研究会
副会長 笹原佳嗣