Time Limit ~税理士は今、何をすべきか~ 【第2回】 AI時代を生き残る会計事務所のビジネスモデル
「TIME LIMIT」第1回では、ChatGPTの登場により、税理士業務がAIによって代替されていく可能性について触れました。では、それはどのような形で表れてくるのでしょうか?
1つの可能性として考えられるのが、e-Taxなどの電子申告システムそのものの改良によって税理士への依頼件数が減少するというシナリオではないでしょうか。国税庁のレポートによれば、e-Taxでの納税者本人による送信件数は平成29年以降、非常に高い増加率で増え続け、令和3年の送信人数は全体の25%となる34,204人、令和2年から令和3年にかけての増加率は41.3%(全体8.6%増)となっています。対話型AIがe-Taxに搭載されれば、このスピードはさらに加速する可能性もあるでしょう。
ちなみに、直近では河野デジタル大臣が行政でのChatGPT活用に積極的な姿勢を見せているとの報道もありました。TwitterでGPT4のデモ動画に対して「e-Taxに実装したい。」とつぶやくなど、このようなAIがe-Taxに搭載されるのは時間の問題なのかもしれません。
もう一つのシナリオとして考えられるのが会計システムへの対話型AIの搭載です。以前より会計ソフトのfreeeでは「人工知能CFO」というサービスを提供することを目標としていることを公表していますが、先日発表されたfreee社が運営する「透明書店」では、ChatGPTを搭載し、経営のアドバイスるをする人工知能副店長が稼働しているというニュースがありました。今後、このような対話型AIが搭載された会計システムが普及していけば、財務・会計・税務についてのアドバイスを日常的にAIが行うようになることもありうるでしょう。
AI時代に税理士が構築すべきビジネスモデル
このように、現在税理士が担っている業務はAIによって徐々に代替が進んでいくことが予想され、当然、税務顧問報酬は今以上に下がっていくこととなるでしょう。
それでは会計事務所は今後、どのようなビジネスモデルを構築していくべきなのでしょうか。まずは、会計事務所がもつ既存の経営リソースを考えてみましょう。会計事務所最大のリソースは何といっても「人」です。そして、その人に依存するものが「業務能力」と「会計・税務の知識」です。また、「現在の関与先の情報・関係性」も非常に大きな資産の一つと言えるでしょう。これらは、会計事務所が他業種に比べて突出している”強み”と言えます。
これらの強みを生かしたビジネスモデルの1つがバックオフィスBPOサービスです。BPOサービス市場は、労働人口の減少やコア業務への集中戦略をとる企業ニーズから年々拡大しており、今後も成長が見込まれる分野です。
バックオフィスBPOでは、前述した会計事務所の持つ経営リソースのすべてを活かすことができます。しかしながら、バックオフィス業務も、結局はAIに代替されることになるのではないか?と思われる方もいらっしゃるでしょう。ただ、バックオフィス業務全体でいえば、会計・税務といった個別業務とは事情が異なると考えています。なぜなら、業務プロセスや処理の方法がある程度定まっている個別業務を自動化するようなAIは作りやすいものの、各企業に合わせて業務全体の完全自動化を設計できるようなAIは作ることが難しいからです。加えて、日常業務においてもいくつかの処理が、人間の業務として残るはずです。
わかりにくいので、具体的な例で考えてみましょう。仕入の請求書の到着から支払いを行い、必要に応じて口座の資金移動を行うような処理をAIに任せるとします。まず、請求書をデータ化する部分ですが、紙の請求書をPDF化してアップロードするという部分はどうしても人間が行う必要があります。紙ではなく、メール添付のファイルやEDIデータを取り扱うとしても、新規支払先が発生した場合の初期登録自体は、当分人間が行うことになるはずです。いったんデータ化されてしまえば、そこから振込データや仕訳データなどをAIが自動的に作成してくれるようになるでしょう。人間はそれらのデータを確認し、必要に応じて修正を加えるといった程度の処理を行うはずです。この確認・修正処理などはAIの精度の向上によって非常に少なくなっていきますが、AIが把握しない実際の取引自体の確認が必要になる以上、最終的な判断自体は人間が行うことになるはずです。そしてその判断には一定の会計知識が必要になります。また、作成された支払いデータにより、「口座資金が25日支払時点で足りなくなるので、事前に資金移動を行ったほうが良い」といったアドバイスはAIが事前に通知してくれるようになるはずです。しかし、一部買掛金の支払いを延長したり、分割で支払うなどのイレギュラーの処理をする場合の判断は人間が行うことになります。利用するシステムにもよるでしょうが、その際、会計システムと債務管理システムでの処理の方法は、会計処理と両システムの構造を理解している人物でなければ指示ができない可能性は高いでしょう。
このように考えると
- システムの初期設定
- 物理的な処理
- 判断
- イレギュラー処理
といった部分は、人間が介入せざるを得ない業務として残るはずです。加えて、このような特性を理解したうえで、どのような業務をAIに任せて、どのような業務を人間が行うのか?ということを設計することはAIにはできません。つまり、「個別のAIを使いこなして業務を最適化し、マネジメントする」という部分は、バックオフィス業務の中でもAIに代替されない部分になるはずです。
バックオフィスBPOサービスを事業化するのであれば、AIやITツールに対する理解を深め、このような業務を代行できるような体制づくりが重要となるでしょう。
第3回へ続く