SMB DX Discussion Vol.3

 

「DX戦略策定と併走支援者の必要性」

 

経済産業省が2020年に「デジタルガバナンス・コード」を発表している。これは、企業経営者が企業価値向上に向けて実践すべきデジタルに関する事柄をまとめたものだ。このなかで、”ビジョン策定”に続いて登場するのが”戦略の策定”である。経営者のビジョンを具体的に実現するための方策としてをデジタル技術を活用する”戦略”を策定するわけだが、中小企業経営者がこのような戦略を一人で策定することは現実的ではないだろう。この段階から、中小企業におけるDX推進はつまずいてしまうわけである。

経済産業省(https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/investment/dgc/dgc.html )

 

この戦略策定だが、デジタルに対する知見や自社の経営状態への認識が不十分であると、夢物語のような実現可能性の低い戦略を選択してしまう可能性がある。たとえば、「AIを活用したシステムを開発することで、売上を10倍にする」などのような、スケジュール感、投資額、技術的難易度、人的リソース、運用ノウハウなどが欠如したような計画だ。中小企業にとっての、このような戦略策定における問題は、なにもDXにおけるものだけではない。いわゆる経営者のKKD(経験・勘・度胸)を頼りに経営をおこなっているような企業では、自身や従業員の自発的な努力によって課題解決を行おうとすることが多い。このような経営をしている限りは、現在の状況から抜け出すことは難しい。

 

経営層のITリテラシーに乏しい中小企業においては、このDX戦略策定の段階から、併走支援が可能なパートナーが必要となるだろう。この段階で必要な支援者の能力は、
①経営者のビジョンと現在の経営状況を正しく理解できる。
②テクノロジーやITサービスに関する”広い知見”をもち、それらの影響力を把握している。
③ビジョンの実現に向けた手段を実現可能かつ論理的に組み上げることができる。
という3つの能力だと考える。②において、テクニカルな能力を必要とはしているものの、戦略段階ではあまり細かな部分までは重要ではなく、むしろ、①③の能力をもち、サポートできることががDXの成否に大きく関わってくるだろう。

 

中小企業の現場で、上記のような能力を持ち、サポートをおこなう事ができる支援者は皆無といっても良いだろう。中小企業が取引するITベンダーは②の能力についてはある程度サポートをおこなう事ができるが、①③については各企業の経営状態を知りうる立場でなければ、能力を発揮することができない。加えて、企業の経営状態を把握するには、財務やマネジメント、マーケティングなどに精通している必要もあるだろう。
このような観点から、私は中小企業のDXをサポートできる併走支援者になりうる第三者は、会計事務所ではないかと考えている。元より一般的に会計事務所は②の能力を有していないことが多く、単独でDXを支援することは荷が重い。しかしながら、この能力についてはITベンダーなど、他の専門家の力を借りることで補完可能な能力である。もちろん外部専門家と連携が可能なだけの基礎的な知識は有している必要があるし、そのような連携が可能なコネクションがなければ実現は不可能である。
中小企業DX推進研究会は、会計事務所にこのような機会を提供する為のインフラとなるべく、活動を続けている。

つづく

 

【執筆者】
中小企業DX推進研究会
副会長 笹原佳嗣