会計事務所の導入システムの変遷を振り返る ~業務管理ツール編~(kintone管理者インタビュー前編)

セブンセンスグループがこれまで導入・活用してきたシステムの変遷を振り返る連載シリーズ『会計事務所の導入システムの変遷を振り返る』。これまでのコラムでは、2000年代のExcel管理から始まり、デヂエやBizBase、FileMakerといったツールを通して、進化してきた業務管理の軌跡を紹介してきました。
シリーズ第4回目となる今回は、業務設計の観点から業務管理ツールを支えてきたキーパーソン・島口さんへのインタビューをお届けします。
島口さんは2010年に入社し、Excelでの進捗管理から、デヂエやkintoneの立ち上げ・展開まで一貫してシステムと業務の橋渡しを担ってきました。現在はDocuWorksやkintoneを中心とした、ペーパーストックレスコンサルティングや、システム管理者の育成支援などにも携わっています。
島口さんが歩んできた軌跡には、属人化の乗り越え方や、管理ツールを 「単に作って終わりにしない」 ための工夫が詰まっていました。ツールの活用を通じて業務改善を積み重ねてきた歩みを、今回は前編としてお届けします。

今回の書記
2020年2月セブンセンスグループ入社
中小企業DX推進研究会 事務局員 Tさん
『今回もグループの知られざる歴史が垣間見られそうです!』
Contents
今回、インタビューしたのは..
今回インタビューを行ったのは、セブンセンスグループの業務設計の一端を担ってきた島口さんです。2010年の入社以来、Excel・デヂエ・FileMaker・kintoneなどのツールを活用し、業務管理表の設計や仕組みの整備を行ってきました。
現在は、kintoneを中心としたアプリ開発・運用支援に加え、ペーパーストックレスのコンサルティングやkintone管理者育成サポートなど、社外向けの活動も行っています。
現場での使用感に耳を傾け、ツールを 「作って終わりにせず、育て続けていく」 。その姿勢には、10年以上にわたる実務の積み重ねと、一貫した信念がありました。
島口さん 変遷

業務管理の礎を築く ── 島口さんのはじまりの物語
2010年 島口さんのシステム担当としての第一歩
2010年、島口さんはセブンセンスグループに入社しました。
当時すでに、グループ内ではシンクライアントシステムの導入 (2007年3月~) や、ペーパーストックレス (2007年7月~) の取り組みが本格的に進められており、業務環境のDX化が着実に進展している時期でした。しかし、これらの取り組みをさらに安定的かつ継続的に推進していくためには、システム面を担う人材が不足しているという課題がありました。
島口さんは前職でネットワークやサーバーの対応経験があり、そのスキルを活かす形でシステム関連業務を担当する部署へ配属されることになりました。
入社後、最初に取り組んだのは、会計ソフト (弥生会計) を使った仕訳入力業務。
研修を兼ねた体験的な業務として行われたもので、実際にはごく一部の入力業務にとどまりましたが、前月のデータを参考にしながら勘定科目を当てはめていく中で、BS (貸借対照表) や PL (損益計算書) の基本的な仕組みについて理解を深めることができたそうです。

📝POINT📝
島口さんが入社される前の2007年あたりから、
グループでは拠点数・従業員数の増加に伴い、製販分離体制の推進が本格的に行われている時期でした。
特にその基盤となるシステム面の整備は飛躍的に進んでおり、
2007年・・・3月 シンクライアントシステム導入、7月 ペーパーストックレス推進のためDocuWorks導入、12月 新グループウェア導入
2008年・・・2月 中国拠点本格稼働のため中国との専用回線契約
2009年・・・4月 データセンターに完全移行
..などなど、拠点拡大や業務効率化を支えるために、システム面では多くの施策が段階的に実施されていました。
2010年 海外拠点とのやり取りから始まった、管理表づくりの第一歩
島口さんが、最初に任された業務は、当時展開していた中国拠点における仕訳入力業務の進捗管理でした。
この時期、中国拠点では日本語学校の卒業生や大学で日本語を習得した人材を中心に、少数精鋭の職員が仕訳入力業務を担っており、静岡オフィスからの依頼内容に応じて、現地の職員が対応していました。
島口さんは、日本側の依頼内容を確認したうえで、中国側のまとめ役の職員とGoogle Chatを活用しながら、案件ごとに入力を依頼。それらのやり取りを記録するExcelファイルはグループ内でも共有されていました。ですが、それはあくまで最低限の情報をまとめる簡易的なものであったため、島口さんは実務の中で気づいた 「こういう項目があったほうが便利だ」 という視点をもとに、独自に内容を拡張していきました。
たとえば、依頼日や納品希望日、処理件数、月数など、依頼時に問い合わせを受けることの多い情報を記録。担当者からの要望にも即時対応できるよう、必要な項目を少しずつ加えながら、自分にとっても使いやすい形へと進化させていったそうです。
この経験が、のちに続く 「管理表づくり」 の出発点となりました。
与えられたツールをただ使うのではなく、業務の実態に合わせて自分で工夫を重ねていくという姿勢は、このときに自然と身についていったようです。

📝POINT📝
当時 (2010年) にはすでに、通常業務の管理は 「BizBase(ビズベース) 」・季節業務の管理は 「デヂエ」 を活用していて業務管理ツールの基盤は整っていましたが、顧問先から資料回収・スキャン・入力・監査.. といった各工程の業務状況を、細かく管理するまでには至っていない状況でした。こうした状況において、島口さんが独自でまとめていたExcelのファイルの存在は、現在の管理表の出発点だったのかもしれませんね!
2010年 自計化顧問先への対応と、コンバート業務から得た知見
当時、グループ内では一貫して会計ソフトを統一していましたが、顧客拡大を進める中で自計化を行っている顧問先も積極的に受け入れていました。その一方で、顧問先ごとの異なる会計ソフトに個別対応すると社内の作業が煩雑になり、ソフト変更を求めれば顧問先にも負担がかかります。
そこで、双方にとって負担の少ない方法として、顧問先には使い慣れたソフトを継続してもらい、グループ内で統一したソフトへコンバートする方針をとりました。
その方針を実現するうえで必要だったのが、異なる会計ソフト間のデータコンバートの仕組みです。JDL・勘定奉行・弥生会計・フリーウェイなど、それぞれのソフトでデータ形式が異なる中、島口さんは既存のExcelをベースに、各ソフトに対応したコンバート用のExcelを整備。各ソフトから出力されたCSVを、変換用Excelに貼り付ければ、各会計ソフトに合わせた取り込み用のCSVが自動生成される──そのような仕組みを、ベースを活用しつつ丁寧に作り上げていったのです。
当時は専用の変換ツールなどもなく、顧客によっては特殊な処理を行っているケースもあったため、現場の税務担当者に個別でヒアリングを重ねながら対応を進めていきました。どの勘定科目がどのように変換されるべきか、また顧客ごとの処理の違いにどう対応するかなど、一つひとつ確認しながら進めていきました。
「この科目は、こっちのソフトに移すと、どうなるのか?」
「補助科目を分けて管理したいという顧問先の要望にどう応えるか?」
こうした実務上の細かな判断を繰り返す中で、島口さんは自然と税務会計の知識も身につけていきました。
業務を支える立場として会計を学ぶ姿勢は、のちに島口さんが数々の管理表を設計していくうえでの、大きな礎となっていきます。
2012年 ゼロベース発想と現場対応 ── デヂエによる管理表設計のはじまり
2012年頃、島口さんは、前任者から業務を引き継ぐ形で「デヂエ」を活用した季節業務の管理表構築を担うことになります。まさに 「業務管理ツールづくり」 を担当する役割への初めての本格的な関わりでした。
当時は、月次や決算といった通常業務は 「BizBase」、年末調整や確定申告などの季節業務は 「デヂエ」 と、用途に応じてシステムを使い分ける体制が取られていました。特に当時のグループには、季節業務は 「前年踏襲ではなく、毎年ゼロベースで業務フローを見直す」 という明確な方針があったため、業務フローの変化に応じて、柔軟に対応できるツールとして 「デヂエ」 は重宝されていました。
管理表の設計にあたって島口さんが行っていたのは、工程ごとの項目名の調整や、入力順の最適化、フィールド幅や背景色の調整といった、現場の細かな要望に寄り添う作業でした。ときには、些細な要望に即座に対応したところ、「そんなに簡単に直せるんですね」 と驚かれることも。このようなやり取りを通じて、島口さんの中には 「管理表は作って終わりではなく、運用を重ねる中で完成していくもの」 という意識が芽生えていったそうです。
またこの時期、グループでは担当者制からチーム制への移行も進められていたため、個人ではなくチーム全体の業務状況を把握するため 「業務の見える化」 が求められていました。こうした背景において、柔軟にカスタマイズができる 「デヂエ」 は、まさに過渡期の管理業務を支える重要なツールとなり、島口さんの管理表設計の原点にもなったといいます。

📝POINT📝
現在では、カスタマイズ性の高い業務管理ツールが広く普及していますが、当時ではまだそのようなツールの選択肢が限られており、柔軟な設計が可能な 「デヂエ」 は、貴重な存在であったと言えるでしょう。
こうしたツールを活用するうえで重要なのは、「一度作って終わり」 ではなく、実際の運用を通じて継続的に見直しを図り、より使いやすい形へと改善を重ねていく姿勢です。このような考え方も、現在は広く認識されるようになっていますが、当時から現場に根付いていたというのは、新たなツール活用へも前向きに取り組み、日々の業務改善に意欲的であったからではないでしょうか。
今回のまとめ
島口さんのキャリアは、システム導入の華やかな開発業務から始まったわけではありません。
最初は仕訳入力や海外拠点とのやり取り、その中で気づいた 「こうしたほうが便利」 という工夫を、自ら手を動かし形にしていく──そんな一歩一歩の積み重ねが、今の 「仕組みを支える人」 としての土台となっています。
属人化を乗り越え、業務の流れを整理し、現場の声に耳を傾けながら仕組みを磨き上げていく。
そうした姿勢は、この先も変わらず、島口さんの取り組みの根っこにあり続けるはずです。
後編は、「仕組みを伝える」 という新たな役割へと歩みを進めた、島口さんの現在をお届けします。