会計事務所の導入システムの変遷を振り返る ~チェックリストシステム編~ (管理者インタビュー後編)

セブンセンスグループがこれまで導入・活用してきたシステムの変遷を振り返る連載シリーズ『会計事務所の導入システムの変遷を振り返る』。これまでのコラムでは、グループ内で利用してきた業務管理ツールや業務設計の工夫を、現場担当者の声とともにお届けしてきました。
今回のテーマは、チェックリストシステム。
クラウド型チェックリストシステム 「アニー」 の導入によって、業務の標準化や属人化の解消に向けた第一歩を踏み出したセブンセンスグループ。前編では、導入の背景や初期構築の工夫、そして現場での運用がどのようにスタートしたのかをご紹介しました。
後編では、チェックリスト活用がもたらした意外な副次効果や、現場で生まれた改善の工夫、さらには現在運用が始まっている自社開発のチェックリストシステムについてご紹介します。
“現場で使いながら育てていく” という文化がどのように根づき、広がっていったのか。現場のリアルな声とともに、その後の展開を追っていきます。

今回の書記
2020年2月セブンセンスグループ入社
中小企業DX推進研究会 事務局員 Tさん
『今回もグループの知られざる歴史が垣間見られそうです!』
業務の見える化がもたらした副次効果
チェックリストシステムの導入は、当初は業務の標準化や品質の安定を目的として始まりましたが、運用を続けるなかで、思わぬ副次的な効果も生まれていきました。
その一つが、新人教育への活用です。経験の浅い職員でも、チェックリストに沿って業務を進めることで、一定の品質を保った作業ができるようになりました。「あれこれ説明するより前に、まずはチェックリストを見てやってみよう、という流れが自然にできていきました」 と森さん。業務内容の理解を深めるだけでなく、チェックリストの内容を読み解き、実行するプロセスを通じて、仕事の全体像をつかむ力も養われていきました。
また、近年は新人や経験の浅い職員にあえてチェックリストの作成を任せることも積極的に取り組んでいます。経験値の高い人が作るチェックリストやマニュアルは、業務内容や状況がわからない人が見ても、結局わからない状態に陥りがち、というのがマニュアルあるあるです。わからない人目線で作成・編集し、それを見ながら困らず業務が遂行できれば、チェックリストとしても完成度が高く、結果的に本人のスキルアップにも繋がっていきます。「他の人に伝わるようにまとめようとすることで、本人の理解も深まり、説明力や整理力も伸びていく。思った以上にいい効果を実感できました」 と森さんは振り返ります。
導入当初は、”業務の抜け漏れを防ぐための道具” という位置づけであったチェックリストですが、次第に “人財育成にも寄与するツール” としての役割を果たすようになりました。現場で工夫を重ねながら運用されるうちに、単なる作業指示書ではなく、チーム全体で知識やノウハウを共有するためのツールとして活用されるようになっていきました。
ツールとしての限界、それを超える文化
チェックリストシステムの導入により、業務の安定性や引き継ぎのしやすさは大きく向上しましたが、運用を重ねるなかでいくつかの課題も見えてきました。
一つは、チェックリストへの依存度が高くなりすぎてしまうことです。業務を進めるうえでの心強い支えにはなりますが、一方で、内容を深く理解しないまま 「書かれているとおりにやればいい」 といった状況も少なくはありません。更新されていない古い情報のまま、状況の検討や考えなしに手が動いてしまうような場面や、「チェックリストがないのでこの処理ができません」 という問い合わせが来てしまうこともあるようです。森さんも 「便利だからこそ、使い方には注意が必要だと感じることもありますね」 と振り返ります。
もう一つは、チェックリストの書き方に差が出てしまうことです。誰でも作成・編集できる環境で運用していたため、項目の構成や説明の細やかさにはばらつきが生じ、読みやすさに違いが出てしまうことがありました。
とはいえ、このような課題も現場では前向きに受け止められていました。「○○さんが書いたチェックリスト、すごくわかりやすいね」 といったやりとりが自然と交わされ、ときにはミーティングが設けられることもありました。そこでは、”自分にとっては当たり前すぎて書き落としてしまう工程がある” ということにも着目し、気づいた人が行間を補っていく大切さについても話し合われました。より伝わりやすく、作業しやすい書き方や工夫について話し合う機会は、その後も少しずつ全体に広がっていったのです。
もともとセブンセンスグループには、日常的に業務をより良くしようとする文化が根づいています。だからこそ、チェックリストに関しても 「誰かできるひとが整えてくれるのを待つ」 という受け身の姿勢ではなく、「もっと使いやすくするにはどうしたらいいか」 といったコミュニケーションが自然と生まれやすい環境が醸成されています。
「最初からフォーマットを統一しよう、というルールがあったわけではないんです。でも、日ごろから業務のことをよく話し合っていたから、チェックリストについても “こうしたほうがいいよね” という共通認識が自然と広がっていきました。みんなで少しずつ育てていけたのは、そういう文化があったからだと思います。やっぱり、そういう文化があるかどうかって、大事なんですよね」 と森さんは語ります。
自社開発システムへの進化と現在地
チェックリストシステム運用がグループ内に定着したのち、さらなる運用性や拡張性を求めて、セブンセンスグループでは2024年、自社で開発したチェックリストシステムの導入が始まりました。
新しいシステムは富士フイルムビジネスイノベーション社製のDocuWorksのプラグインとして動作する仕様のためブラウザでは使用できません。しかし、これまでもチェックリストの運用がしっかりと定着していたこともあり、現場では特に支障なく受け入れられ、職員も自然と新しいツールに馴染んでいきました。
このシステムには、手順ごとの参考画像や計算用資料などの添付機能、チェック状況を見やすく印刷できるフォーマット、チェック履歴や項目編集の時間帯や担当者を一覧で確認できる管理機能など、現場の業務に役立つさまざまな工夫が盛り込まれています。
特に大きな強みとなっているのが、自社内で開発を行っていることです。部内で日々使いながら改善点を洗い出し、開発担当者に直接要望を挙げることで、現場の声をすばやく反映できる体制が整っています。
「 “ここがもう少しこうだったら便利かも” という気づきがあれば、すぐに開発担当に伝えています。開発者も社内の人なので業務のこともよく分かってくれていて、こちらの意図も伝わりやすいですし、対応もとても早いですね」と森さん。
その結果、出来上がったツールは実務にしっかりフィットしており、「現場でもとても使いやすい」 という声をよく聞きます。今後も日々の業務の中で出てくる気づきを大切にしながら、さらなる改良が重ねられていく予定です。チェックリストの仕組みも、チームとともに少しずつ進化を続けていきます。
今回のまとめ
チェックリストというと、「作業漏れを防ぐための確認表」 として捉えられることが一般的かもしれません。
もちろん、それも大切な役割のひとつですが、セブンセンスグループにおける活用の過程を見ると、それ以上の意味を持つ存在として育ってきたことがわかります。
「誰がやっても同じようにできる」 ことを目指して始まったチェックリストの運用は、現場の声を取り入れて柔軟に改善され続け、教育のツールとしても、チームで業務を支える仕組みとしても、広がりを見せてきました。
属人化の防止、他拠点との連携、新人育成、業務品質の安定、そして継続的な改善。
そのすべてが 「手順を見える化して、知識をみんなで共有する」 という文化によって支えられています。
「チェックリストって、”やらされるもの” だと思われがちですけど、みんなが自分ごととして関われるようになったことで、ただの確認表ではなく、チーム全体で業務を支える仕組みになったんだと思います」 と森さんは語ります。
「便利なツールを導入さえすれば、それで課題解決」 という話にはなりません。
現場で何が求められているかを受け取り、それをどのように仕組みへ落とし込んで、どう育てていくのか。
セブンセンスグループのチェックリストシステム運用には、そんな実践的なヒントが随所に詰まっています。