Time Limit ~税理士は今、何をすべきか~ 【第1回】 ChatGPTの登場は税理士業界をどう変えるか

2022年12月、米国の非営利法人OpenAIが発表した「ChatGPT」は瞬く間にその名を世界中に轟かせました。
自然言語処理技術を応用した大規模な学習モデルを採用したこのAIは、幅広い分野での応用が期待されています。例えば、医療や法律、金融、自然科学など、さまざまな分野における情報や知識を学習することで、専門的なサービスを提供できる可能性があります。先日発表されたGPT-4という大規模言語モデルでは、すでに米国司法試験の上位10%のスコアで合格できるほどの能力を持っていると報道されました。
税理士業界は、その仕事がAIによって代替されるといわれて久しいですが、ChatGPTの登場は、近い未来にこのような状態が起こりうることを予感させるものとなりました。

GhatGPTで一躍注目を浴びることとなったOpenAI
https://openai.com/blog/chatgpt

また、このようなテクノロジーによって、徐々に現在のホワイトカラーと呼ばれる職種の業務も代替されていく可能性が高いでしょう。すでにMicrosoftはこのGPT-4を搭載したオフィスアプリを発表しています。これまではRPAなどでの自動化が注目されていましたが、今後はこのようなAIに話しかけるだけで、自動処理をしてくれるような時代になっていくはずです。

このようなテクノロジーによって、税理士業界はどのように変わっていくのでしょうか。
中小企業DX推進研究会は、2021年に出版された「事例から学ぶ これならできる! DX税理士事務所(ぎょうせい)」という書籍の中で、10年後の税理士業界についての予想をしています。その中で、「10年後の業界は、テクノロジーを活用したデジタルネイティブ事務所が台頭する。」ということをお伝えしました。2023年現在、実際にそのような事務所は徐々に勢力を拡大しており、オンラインコミュニケーションを中心とした、無訪問・低価格路線の若手税理士事務所は増加の一途をたどっています。
加えて、税務や会計の専門性は、前述したAIによって薄れていくことでしょう。もはや、私たちが2021年に予想したスピードを超えて、税理士業務のあり方が変わっていくこともあり得ます。

スタートアップや創業後間もない企業を中心にデジタルネイティブ事務所のシェアが拡大

この状態を踏まえ、税理士は今、何をすべきなのでしょうか。
今現在、何の策もなく、時流だからと言ってクラウド会計を採用していく事務所は非常に苦しい展開に迫られるかもしれません。税務や会計の専門性が失われてしまうと、税理士事務所が行っている業務の付加価値は、労働力の代替のみとなってしまいます。そのような状態では、顧問報酬を維持することは難しく、そもそも、その労働力すらもAIによって代替されてしまう可能性があります。形だけクラウド会計を導入し、低価格路線で顧問先件数の維持を試みるのみでは、生き残ることは難しいと言わざるを得ません。

そのような事態を回避するために、資産税や補助金、コンサルティングなどを事業の核にすべく努力している事務所も多いことも事実です。それらは決して間違いではありませんが、われわれ研究会は、バックオフィスのデジタル化支援事業をその一つに加えることを提案したいと思っています。その理由は、この市場が今後も成長する可能性が高く、税理士の強みを十分生かせる事業だからです。2020年からスタートした本研究会の会員にも、このような事業に取り組み、成功を収めた事務所が現れ始めています。

今後このコラムでは、研究会が提唱するデジタライゼーション支援の内容と事例、それによって税理士事務所にどのようなポジティブな変化が起こるのかをお伝えしていきます。これを読んだあなたの事務所が中小企業のデジタル化支援事業にチャレンジし、関与先とともにさらなる発展につなげていただくことを願っています。