SMB DX Discussion Vol.4

 

「中小企業におけるデータ活用」

 

 最近、メディアで注目されているワークマンという企業がある。もともとは個人向けの作業服を店舗販売するというビジネスモデルだったが、近年はアウトドア・スポーツ向けの高機能ウェア商品に特化した「ワークマンプラス」という業態で高い業績を上げていることに注目が集まっている。この企業が販売データの分析を行う上で使用しているツールは、他ならぬExcelなのだという。ワークマンプラスの着想も、このExcelデータから「アウトドア目的で特定の高機能作業服が売れている」という事実を発見し、そこから発展させたものだという。このような「顧客ニーズをデータから発見し、新たなビジネスを創出」したワークマンの取り組みは、DXにおける重要な要素の一つでもある。

 昨今のDXブームの中で、データ分析の重要性が叫ばれているが、この文脈での「データ」とは、いわゆるビッグデータ、つまり、データベース等で構造化されていない非常に扱いづらい大量のデータのことだ。このようなデータを機械学習などのテクノロジーによって分析し、ビジネスにおける新たな価値創造に繋げていく、というのがよく見るパターンなのだが、中小企業でこのようなビッグデータを保有しているような企業は、テック企業でもない限り稀である。一般的な中小企業でデータ分析を始めるのであれば、Excelでの簡単な分析から始めても十分だと言えるだろう。

 こんな話をすると、「そのような分析であれば、すでに自分たちでやっている」という声も聞こえてきそうだ。もちろん、中小企業であっても営業会議はやっているだろうし、商品別、得意先別の売上については毎月チェックしているという企業がほとんどのはずだ。しかし、それで十分な分析と、これを踏まえての具体的なアクションがとれていると言い切ることができるだろうか。営業会議で示されるデータは単なる従業員の意識づけ(「おい、今月は成績が悪いぞ!もっと頑張れ!」というような)程度にしか活用していない企業は非常に多いと感じている。重要なのは、「このような結果になった原因は何か?」「このデータは他のデータとどのような関係にあるのか?」というような、「なぜ?」を突き詰めて考え、そこから学びを得ることではないだろうか。先に挙げたワークマンの例でいえば、難燃性の作業着が売れていることに気づき、これを調査した結果、キャンパーたちが焚き火のウェアとして購入していることがわかったのだという。もしここで、このデータの異常値に対して「なぜ?」という疑問を持たなければワークマンの躍進はなかったかもしれない。


さて、中小企業のデータ活用において、真っ先に取り組むべきことは何だろうか。研究会では2021年8月に「なぜDXはバックオフィスから始めるとうまくいくのか」という書籍を出版した。これは、中小企業のデータが集中するバックオフィスこそ真っ先にデジタル化に取り組むべきという趣旨の内容となっている。(これだけというわけではないが。)販売データ、仕入データ、人事データ、そして会計データはその中心的なものだ。ここから拾える情報だけでもかなりのことがわかってくる。中小企業がデータ活用を始めるのであれば、まずはこのようなところ始めても良いだろう。

 そして、さらに一つ一つのデータを構成する要素となるデータは何なのかを検討していく。例えば、飲食店であれば、客単価や回転率、坪当たり売上といった重要な指標があるはずだ。このような指標を向上させるような取り組みを検討し、まずは「仮説」として取り組んでいく。実際に効果が出たのかどうかをあらためてデータから「検証」し、原因を特定したら修正を加えて実行し…というPDCAサイクル作り上げることが理想的だ。このようなスキームの構築とともに、追加で必要となるデータも登場するだろうが、その時に初めてIoTやAIのような1つ上のテクノロジーを活用すれば良いのではないかと考えている。

 上記のような方法論は、DX以前の話ではある。しかしながら、このような体制すら構築できていない中小企業がほとんどではないだろうか。中小企業であれば、複雑なことをはじめる前に、手元のデータから客観的かつ合理的に経営判断をするという「クセ」をつけることからはじめてみてはいかがだろうか。このような土壌が整えば、自ずとデータに対する価値観が変わってくるはずだし、デジタルに対する姿勢も前向きになるだろう。

 

つづく

 

【執筆者】
中小企業DX推進研究会
副会長 笹原佳嗣