SMB DX Discussion Vol.2

 

「デジタルの重要性に対する認識と経営の視点」

中小企業経営者にDXが浸透しない理由はなんだろうか? 

 2021年5月のアスクルの調査(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000236.000021550.html )によれば、DXの「内容を詳細まで知っている」「内容をある程度まで知っている」と回答した企業はわずか16%に過ぎない。また、DXを認知している企業であっても、取り組みを行っているのはわずか3割程度という状況だ。自社の経営にとって、DXが有益なものであるという認識があるのであれば、何らかのアクションがあって然るべきだが、そのような動きが少ないと言うことは、「デジタルに対する期待などもっていない」と考えるのが自然だろう。

 

 そのような企業にとって、DXというよくわからないものに取り組むよりも、目先の売上や資金繰り、人材の確保といった現実的な課題を”今すぐに”解決できることが重要なのであろう。会計事務所が関与するクライアントでも、経営計画を立て、中長期的なビジョンを持った経営に取り組んでいる企業は多くない。3年先の事を考えるよりも、来月、来週、明日をどうやりくりするかという部分が、経営者の思考の大半を占める事項となってしまっている。まずはこの視点が変わらない限り、DXの推進など取り組みようがないだろう。仮にその事業が対象とするマーケットが縮小し続けていることが分かっていても、今と変わらないビジネスモデル、業務プロセスのまま事業を継続しようとし続けるに違いない。

 

DX推進ガイドライン(https://www.meti.go.jp/press/2018/12/20181212004/20181212004.html ) 

 

 経済産業省の示すDX推進ガイドラインによれば、DXを推進する上で「経営戦略・ビジョンの提示」が最上位に示されている。私は、この経営層が提示するビジョンこそが中小企業のDXにおいて最も重要ではないかと考えている。デジタルを経営に取り入れるかどうかはさておき、まずは経営を短期的な視点から変える必要があるだろう。その為には、経営者が本当に実現したい理想の状況を明確化させる事が必要なのだと考える。

 

 このような話をすると、「それは、単に会社が儲かることではないのか?」という声が聞こえてきそうだが、それは違う。もちろん、企業が利益を上げるために活動することは、法的な存在理由から見ても間違いないが、経営者やオーナーが自身の私腹を肥やすためだけに事業を行っているということは少ない。(ゼロではないが…)会計事務所の立場では経営者とこのような話をする機会が多く、多くの経営者が、その事業に対して社会的意義を感じ、その実現に向けて経営をしている。多くの企業では、企業理念、クレドなどにそれが現れている。

 

まずは、このような経営者が漠然といだいている理想のようなものを明確なイメージとする事が必要だ。明文化するだけでも良いが、経営計画書のような財務情報が含まれるものであればなお良いだろう。

 

とにかく、このイメージが明確であればある程、具体的な手段を検討しやすい。そして、その手段の中に「デジタル」があるというのが中小企業のDXの本来の姿なのではないかと考える。理想像の実現に「デジタル」が不要であればそれでも良い。しかしながら、現在の事業環境を考慮したとき、中長期的な視点でデジタルが全く不要であるという事は、考えにくいだろう。

 

 DXというワードだけが先行している昨今では、なにかとデジタルが主役でなければならないという風潮があるように感じるが、それは単なる手段である。(有効な手段である事は否定しない。)まずは自社がどのような企業となるべきなのかをしっかりと考えてるところか始めてみてはと思っている。

 

※1つ、注意しておきたいのは、現在このような考えとは別に、デジタルによるサービスの企画やテクノロジーの開発が先行するという概念が生まれてきている。FacebookやGoogleなどのテクノロジー企業の発端がそれにあたる。このようなスタイルはスタートアップ企業などでは一般的だが、日本の一般的な中小企業での再現性は低いと考えている。

 

つづく

 

【執筆者】
中小企業DX推進研究会
副会長 笹原佳嗣