SMB DX Discussion Vol. 1
中小企業DX推進研究会を立ち上げて1年が経過した。2020年の12月には経済産業省より「DXレポート2(中間取りまとめ)」が発表され、「DXとは何なのか?」「なぜ必要なのか?」が示された。しかしながら、日本企業の大半を占める中小企業での認識はほとんど変わっていないというのが実感である。コロナ禍によって、なんらかの対応を迫られた企業は多かったとは思うが、ほとんどの中小企業にとってそれは一時的なものであり、変革に結びつけた企業はごく少数ではないだろうか。
また、DXレポートで発表された内容は、一部は中小企業に特化した記述はあるものの、その多くの部分は企業規模が意識されておらず、中小企業にとっては実現のイメージに乏しい方法論が示されていると感じている。人、モノ、カネ、情報というあらゆるリソースの不足に加え、経営層のITリテラシーすらままならない中小企業にとって、レポートで示された対応を行うことはかなりハードルが高い。
このような観点から、本コラムでは、中小企業のDXを推進するうえでの、現実的な方法論について、実際に中小企業のIT支援を行う立場から、現場の声やリアルな状況を交えながら、検討を進めていきたい。なお、DX推進の方法論についてDXレポートが示すものを否定するものではなく、いかに中小企業においてこれを実現するかということを事例や「現場の肌感覚」を交えながら検討したいと考えている。
「中小企業にとってのDXのゴールとファーストステップ」
「DX」というワードの浸透とともに、中小企業における成功事例が徐々に登場し始めている。これらの事例を見ていくと、「クラウド」や「AI」などの最新のテクノロジーを活用したシステムにより、顧客サービスの向上や業務効率化、マーケティングを成功させた事例などが目立つ。このような事例は非常にインパクトがあり、デジタル化という面では好事例であることは間違いないが、すべての企業がこのような取り組みをできるわけではないだろう。小規模事業者では、このような独自システムを構築できる企業は稀であり、これが目指すべきゴールなのであれば、中小企業にとってのDXはあまりにもハードルが高い。投資余力が小さい中小企業でも実現可能な「DX」の形はないのだろうか。
DXレポート2において、企業が直ちに取り組むべきアクションとして下記の4つが示されている。
経済産業省 DXレポート2中間取りまとめ(概要)
https://www.meti.go.jp/press/2020/12/20201228004/20201228004.html
経済産業としても、ビジネスモデルに関わるような大きな取り組みをいきなり始めるのではなく、ファーストステップとして小さな成功体験を積み、コロナ禍のような突発的な環境変化にも柔軟に対応できる環境を準備することを勧めている。これらを実施すること=DXの実現であるわけではないが、このような対応に必要な資金・コストは非常に小さく、中小企業でも十分取り組むことができるものである。まずはコストが小さく、導入が容易なSaaSなどをできる限り活用し、可能なところからデジタル化を始めることは、DX実現の現実的な手段となるに違いない。
つづく
【執筆者】
中小企業DX推進研究会
副会長 笹原佳嗣